FC2ブログ

記事一覧

愛する人へ (後編)


「あぁ~、良かった…。安心したわ…」

電話口でお母様の症状を聞かされたとき、思わず口から出た言葉。

立樹の蹴ったボールにお母様が直接当たることはなかった。
(それを聞いただけでも、身体から力が抜けるのが分かった)

振り向き様にバランスを崩し倒れたようだ。

転んだ場所には石が綺麗に配置されていた。

倒れる位置が少し違えれば大事故になっていた。
(それを聞いたあとはゾッとして、一瞬で鳥肌が立った)

道明寺家の主治医からは、
『少し微熱もあるので、暑さから来るのもあるかと思われます。頭部への外傷による傷は無いようです。倒れる時に手をお着きになっていられますし、旦那様が、頭を守られたようですので…』

そう、お母様が倒れ込む時に、司が頭を地面に打ち付けないように守ったようだ。

その為に司は右手を怪我したと、伝えられた。


開万の話では、司がお母様の側にいるらしいのだが、司はひどく考え込んでいるようだったと言っていた。

唄を口ずさんだり、おばあ様を見ているようで、遠くを見たり、かと思うと、ひとりで嘲笑するかのように笑ったりしているのだとか。

開万の率直な意見。

あんな父さん初めて見るかも。









いつの間にか眠っていたようだ。

起き上がると、ブランケットが肩からするりと床に落ちた。
いつの間にか掛けられていたようだ。


俺はまた幼き日の夢を見た。

母親に向かって懸命に手を伸ばして立ち上がろうとする幼子
抱き上げた母親の優しい顔

そして母親が唄う子守唄

Joyful, joyful, we adore thee,
God of glory, Lord of love
hearts unfold like flowers before thee,
opening to the sun above.

(ベートーヴェン作曲による交響曲第9番の楽曲による讃美歌)

この歌詞を口ずさんだ瞬間、走馬灯のように幼い時の映像が頭の中を流れる。

『お母様、大好き』
『司、わたくしも大好きですよ。いい子にしていなさいね』
そう言って、微笑む母親の姿。

それは現実だったのか…
幻なのか…

自分の子供たちが成長し、仕事も一緒にするようになり、母親への恨み辛みは薄れたように感じていた…。

息子の立樹が、自身の幼いときと同じような言動を取るからこそ、遥か昔の出来事を思い起こさせているのだろうか?

窓を見ると、星空が広がっていた。
いつの間にか、夜になっていたようだ。

母親とこれほど長い間、同じ空間に居たことがあっただろうか?


「…かさ…」
目を閉じたまま、右手が空をさ迷っている。
夢の中で何かを探しているのだろう。
「…司…」

さ迷っている手をそっと握ってあげる。

こんなにも小さな、シワのある手だったのか…

記憶にある手とは全く違っていた。

顔を見ると、穏やかになっているのが分かる。
「…かさ…いい…にし…い…よ」

そっと握っていた手を離す。

音を立てずに席を立つ。

横たわっている母親に背を向けた時、自身の耳にはっきりと聞こえてきた言葉。

「つかさ、いかないで…」

思わず振り返える。

目は固く閉じていた。
仕舞った手がまた空をさ迷っている。

「いい子にして…どこにも…いかない…つかさ」









母親たちのプライベートルームからどんな風に歩いて来たのか覚えてない。

自分達のプライベートルームに戻ると、つくしがソファの肘掛けに寄り掛かってうたた寝をしている。

いつの間にか帰宅していたのか?

ドアを開ける音で俺が部屋に戻ったと気付いて起き上がった。

「お母様のご様子は…」
つくしの顔を見た瞬間、何とも言えない押さえていた衝動が沸き起こる。


ふうぅぅんっ

苦しそうなくぐもった、言葉にならない声が自身の口の中に響いてくる。

細い華奢な身体を力ずくで抱き締め、口を塞ぎ、征服しようと試みる。

力ずくで動きを封じ込め、身動き出来ないように締め付け、声を上げて抵抗すらも出来ないように口を塞いでいる。

だと云うのに、すこしばかり動く手のひらで、俺の腰を擦り、鼓動に合わせて優しくたたく。

何時も子供をあやす時につくしがしているリズムと似ている。

腕で締め付けている緊張を少しだけ緩める。

相手の唇ごと覆って、飲み込もうとしていた自身の唇を相手が呼吸しやすいように、触れるだけの口付けに変える。

「…かさ、いい子だよ。いい~子、頑張った。
つ~かさ、いい子だよ。いい~子、お利口さん…」

立樹をあやす時にするメロディーとリズムを俺の名前に置き換えて、俺の背中をゆっくりと撫で、時に優しくリズムと合わせてたたく。

髪の毛を優しく撫でたり、背中を擦ったりされると、不思議と先程のえも言われぬ焦燥感が薄れていくのが分かる。

「ガキと一緒にすんなよ…」

俺の言葉に、フワッと笑って俺の顔を両手で挟んだ。

「馬鹿ね。元気の出るおまじないよ…」

そう言いながら、包帯の巻かれている右手を優しく包み込み、また例の唄を歌い始めた。


「つくし、俺…」

俺が言いかけると、つくしは俺の身体を力一杯抱き締めてきた。

「今になると、あの時の貴方でなければ、あんなにも恋い焦がれたりしなかっただろうって思うのよ?」

「つくし…?」

「貴方の幼い時はメールもネットもないのよ?相手の話を聞いたり、意見の交換をするだけでも大仕事だったと思うの」

「つくし…」


こんなにも愛情の深い男はいないでしょ?

あんな風な男じゃなかったら、きっと貴方をよく知ろうとしていないと思うよ。

冷たい表情の下に隠された温かくも深い深い愛情の持ち主だって、気がつかなかったと思うから。


「ほら、明日、お母様がきちんとお目覚めになられたら、立樹を連れて謝らせないとよ?」

二人で息子が眠るベッドを見る。

「今日は二人で立樹を挟んで眠ろうか?」





ベッドのなかで立樹を挟んでつくしと顔を合わせる。

どちらともなく、相手に手を伸ばす。

優しく触れるだけのキスを何回も交わす。




「ママ…パパ…チュウしてるの?」


下を見ると立樹がうっすらと目を開けている。

「ありがとな。そして愛してるのチュウだ」

つくしは顔を少し紅くして、
「りっくんにもしなきゃね?ねぇ、司?」
そう言ってきた。

「そうだな…。立樹、ありがとな」

チュ

「愛してるよ。りっくん」

チュ

チュ

「パパ、ママ、明日さ、おばあ様のところに一緒に来てくれる?おばあ様に謝るから」

「そうね。一緒に謝ろうね」

「いい子になります。ってな」
司の言葉に、
「うん、いい子になるから、また会いに来てって、お願いする。七夕の願い事にも書いた」

少し間を置いてから、
「パパ?お手て、痛い?ごめんなさい」

「あっ?こんなの傷のうちに入らねぇよ。包帯なんて大袈裟なんだよ」

「魔王だもんね?パパは」

「あっ?まぁ、魔王でも少しは痛ぇけどな」


クスクス

つくしは愛しそうに立樹の髪を撫でる。

「司、貴方と同じ。そっくりよ」

暫くすると、立樹は安心した顔でまた眠りに着いた。


つくしも同時に安心したように眠った。


それを見届けた俺もいつの間にか夢の中に旅立っていた。



星が煌めく夜に起こった家族の物語



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



喜ばしきかな 
汝をあがめん
栄光の神 愛の主
汝の前に心は花開く
頭上の太陽に向かって

(英語の歌詞の和訳となります)
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト



コメント

Re: つ〇〇〇〇様

読んで頂いてありがとうございます。

えりりんはこのコメントを見て、熱いものがこみ上げ、涙しました(* ̄ー ̄)

あったかいエネルギーを届ける事が少しでも出来たのなら、嬉しい限りです( 〃▽〃)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

えりりん

Author:えりりん
ようこそ、おいでくださいました。

ここは、「花より男子」の二次小説置き場です。

つくしと司のその後の未来を、勝手に妄想して、こんなだったら……♥️

等と、妄想に妄想を重ねたブログです。

よろしければ、覗いて見てくださいませ。

ただし、素人の勝手な思い込みで書いております。

皆様のお考えと異なる事があるかと思われますが、ご了承くださいませ。

原作様の神尾様には、素敵な作品をこの世に送り出して頂いて、本当にありがたく思っています。

えりりんの妄想で少しでも楽しんで頂けたらなと思っております。



出版社様、原作様とは、一切関係はありません。




PVアクセスランキング にほんブログ村