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チョコレートはセピアに染まる(中編)

目覚めてから、先程の恐ろしい出来事は夢だと分かった。
ひいろとみのりも無事だという事も。

それでも、溢れだす涙が止まらなかった。

きっと、少し疲れているのだと、どこか冷静なあたしは自分に言い聞かせる。

司はそんなあたしを慰めようと身体を擦ってくれる。
司のあたしを見る瞳はどこまでも優しく、夢で見ていた冷徹な様相はまるで感じられない。

それはいつもの司で、いつもあたしに仕掛けてくる手の動き。

大きな手のひらで撫でていると思ったら、不意にスッと指先に変えて身体をなぞるようにするその動き。

何年も。
何十年もその手のひらと指の動きを受けてきたあたしは次に何が起こるのか容易に想像がつく。

たぶん、いつもならそこで司の行為に流されて、いつものように司に愛されるのだろう。

だが、今朝のあたしはそんな司を完全に拒否した。

喚き泣きながら猛抗議していた。

「ウウッ…。ウゥウウッ…。そんな事をして欲しいんじゃないのに…」

司を見るとあたしの言動に表情をコントロールする事ができていないみたいだった。

恐らく仕事中では決して見せないような呆けた表情をしている。
(人様が見たら、それはそれで喜ぶかも)

それはほんの少しの間で、暫くすると、さも困ったと云わんばかりの表情であたしを見て、涙でベタベタするあたしの頬を両手で優しく包んできた。

「フー…。分かったよ…。どうしたいんだ?」

「…どうしたいんだろ?」

本当にどうしたいんだろ?
自分でもよくわからないが、まだ夢から完全に覚めきっていないのか、ひいろとみのりを失ってしまったのだという喪失感が頭の中の半分を支配していた。

あたしの頬を優しく撫でる司の手のひらに自分の手のひらを添えた。

「きっとね…。この思いを伝えたらスッキリすると思うの…」

子供達にこの気持ちをどうしても伝えたいと思った。

ベッド脇のサイドボードに目を配る。



やっぱりないか…。



昨日の帰って来てからの行動を思い出す。

…そうだった。
うららの部屋かも。

「子供達にLINEしてくるね」

「はっ?LINEって?」

また司の表情が呆けた顔になった。

「ひいろとね、みのりにね、今日の夢について報告しようと思って。二人が大丈夫だとは分かったよ。でもね、報告したいの!!」

そう言って、また泣いてしまった。

泣きながら、ベッドから降り立った。
うららの部屋に行こうと寝室から出る。

まず、顔を洗ったらスッキリするかと思い洗面台に向かう。

喉が酷くカラカラしている。

洗面台の中のあたしは、それはそれは酷い顔をしていた。

瞼は少し腫れていて、目の下には隈があった。

リビングに足を踏み入れた。

リビングのソファーに昨日着ていたセーターとアンクル丈のボトムスが無造作に脱ぎ捨ててあり、その横に昨晩持ち歩いていたバックが置いてあった。

その中からスマホを取り出した。

あたしはスマホを持ち、寝室に戻った。

今朝の恐ろしい夢について報告しようと画面を開いた。

夢を思いだしながら、文字を打ち込んでいると、その時の悲しい思いがまた押し寄せて来て、涙が止まらなかった。

打ち終わるとかなりの長い長文になっていた。

子供達とLINEは勿論している。
けれども、お互いに簡単な文章と絵文字やスタンプで済ませていた。

二人とも、こんなに長い長文が送られてきてビックリするかもしれない。

でも、読んでくれたら凄くうれしい。


あたしが文章を作成している間、司は寝室からいつの間にかいなくなっていた。

ひいろとみのりに打ち終わった内容を送信する。
すると、ひとつの区切りが出来たようなそんな気持ちになった。


「出来上がったか?」

司は私服に着替えていた。
優しい眼差しであたしを見つめてくる。

「何て書いたか見たい?」

「あぁ。見てもいいのか?」

あたしは司に送った内容を見せた。

「…すげぇな。これでスッキリしたか?」

司の言葉に素直に頷いた。

「もう少し寝ておけ。まだ7時にもなってないぞ」

「…うん」


そう言われて、寝室の時計を見る。

本当だ。
年を重ねたら、どんな時もいつもの起床する時刻に目が覚めるようになった。

「今日はどこにも出ないで家にいる予定だろ?ゆっくりしとけ」

「…うん」

そう言って、あたしのおでこにキスを落としてくる。
今度は素直に受け入れられた。


ピロリーン


送信してから間もなくしてスマホから着信のメロディが鳴った。

急いで画面を開くと、みのりからの返信だった。

『なんか私も悲しくなっちゃったよ~(>_<)/~~』
『私は元気だよ!無事に帰って来たからね』
『ママこそ大丈夫?』
『体調悪いの?身体をゆっくりと休めてね』

みのりからの返信を見たら、気持ちがまた溢れだした。

涙を手の甲で拭いながらLINEの返信の内容を司に見せた。

「もう、泣くな。良かったな。すぐに返信がきて。…ほら、もう少し寝てろ」

司はそう言うと、あたしをベッドに横になるように促してきた。

みのりから返信がすぐに来たことで安心したのかすぐに眠りに落ちてしまっていた。








楽しそうに笑い合う声が聞こえる。
いつもは聞こえてこないその声が。

急いで、ベッドから起きてリビングに顔を出す。

そこには今朝夢で見た娘の姿があった。

弟たちと楽しそうに会話していた。

勿論、夢の中の姿と違って背が伸び、髪の毛もショートカットではなく胸まで伸びている。

「みのり?!」

「あっ!ママ~。おはよう。ママに元気な姿を見せようと思ってね。帰って来たよ」

こういう時の、くりくりした目は幼い時と変わらない。
(くりくりとした瞳というよりは、キラキラした瞳に変貌を遂げてはいるが)

物凄く嬉しくて、ちょっと泣きそうになった。

「来てくれたの?」

「勿論」

綺麗な笑顔で微笑んでくれた。

ソファーに腰掛け、大好きなキャラメルフレーバーのコーヒーを飲んでいる。


広いリビングの一帯に凄く甘い匂いが立ち込めている。

それでもこの甘い匂いがこのコーヒーだけじゃないのは分かった。

大好きな、大好きな美味しい香りだ。

『みのり~。休憩が長すぎるわよ。わたくしにばかりさせないで下さる?』

「分かったわよ。今戻りますよ~」

みのりがダイニングに向かって声を張り上げた。

みのりは、あたしが驚いた顔をしていたのに気付いた。
『ひいろも来てくれてるの?』そう顔に書いてあったのだろうか。
みのりはあたしが問う前に、ひいろと帰宅したことを告げてきた。

「お姉さまも一緒に帰って来たのよ。ママを元気付けようと思ってね」

「ちょっと、まだですか?あっ、お母様?!お目覚めになったの?」

サラサラの艶やかな髪の毛を頭の後ろでしっかりと結んでいる。

「…ひいろ。来てくれたのね?ありがとう」

あたしの言葉にはにかむように微笑んだ。

その微笑みは昔のあの頃よりも上品さがさらに加わり、彼女独自の気品を醸し出している。




「いい香りね。焼いたチョコの匂いがしてくるわ」

「お母様の大好きなチョコレートを使ってお菓子を作って差し上げたかったの」

「そうそう。もう少しでバレンタインだしね」

ひいろは材料を揃えて、それから『我が家』に帰って来たらしい。

プレゼントだからと、邸にあるものを持ち出して使おうとしない所に彼女の誠実さが感じられる。


『ねぇねぇ!!ひぃちゃん、みぃちゃん、何してるの?うららだけにさせないでーー!!』

うららの声がダイニングから響いてくる。



今、三姉妹でリビングに立ち、あたしに手作りのお菓子を作ってくれるんだって。

(息子たちは味見専門員とウェイター専門)

ここにはちゃんとしたシェフもパティシエも在中している。
それでも、料理やお菓子作りを子供達と一緒にしてきた。

娘のたちとキッチンに立ち、お菓子作りをするなんて昨日のあたしは考えてもいなかった。



あたしの大好きな甘い香りに家中が満たされた。





「おっ、お前ら来てくれてありがとうな」

娘たちとキッチンに立っている所に司が顔を出した。

司が出掛けていたのに今更気付いた。


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プロフィール

えりりん

Author:えりりん
ようこそ、おいでくださいました。

ここは、「花より男子」の二次小説置き場です。

つくしと司のその後の未来を、勝手に妄想して、こんなだったら……♥️

等と、妄想に妄想を重ねたブログです。

よろしければ、覗いて見てくださいませ。

ただし、素人の勝手な思い込みで書いております。

皆様のお考えと異なる事があるかと思われますが、ご了承くださいませ。

原作様の神尾様には、素敵な作品をこの世に送り出して頂いて、本当にありがたく思っています。

えりりんの妄想で少しでも楽しんで頂けたらなと思っております。



出版社様、原作様とは、一切関係はありません。




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