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チョコレートはセピアに染まる(前編)

つくしは、実家のマンションの階段を上がった。
その階段は少し急配になっている。

コンクリートの階段を上がり終えると視界が開け、左手に隣のマンションが見える。

そのマンションの三階には同じ年の頃の女の子がいて、顔を会わせると挨拶をしたりしたものだった。

マンションは今や改装されていて、クリーム色だった外壁は少しダークなグレー色に塗り替えられている。



そういえば、ここに来ても、その彼女の姿を見かけることがなくなったよね。

あの子はどうしているんだろう?

不意に頭を過ったが、連絡先を交換するような間柄ではなかったことに今さら気付く。



ちゃんとしておけば良かったな…。

気が合う人だったのに…。



そんな事を頭に思い描きながら、実家のドアに向かう。

このマンションは、つくしが大学生の時に家族で住んでいた。

マンションといっても、高層ビルではない。
五階建ての賃貸だ。



へぇ、ここのマンションも改装したんだ。



家の前の扉は以前は曇りガラスが施されていたのに、今はそこに板が貼り付けられており、なかの様子がちっともわからない。

お隣の扉も同じように板が貼り付けられていた。



それにしても、凄い改装の仕方…。



そんな事を思い、扉を開けて中に入る。
部屋の中は昔と変わっていなかった。

ほんの少しホッとしている自分がいる。

奥のリビングがあった場所に足を踏み入れると、子供達の姿があり、ビックリしてしまった。



「ママ~、あのね。ここにいたんだよ。わからなかった?」

髪をショートカットにしたばかりのみのりが、くりくりした目をパチパチさせている。

「ママ。待っていたよ」

ひいろはみのりの手をしっかりと握ぎりながら、あたしの方を見てはにかむように微笑んだ。

二人で肩を寄せ合い寄り沿っていたように思えた。

なぜだか、英徳の初等部で着る体操着に二人とも袖を通している。

ひいろは六年生。
みのりは二年生だ。

「ひいろ?みのり?こんな格好でどうしたの?制服は?」

「ママ、大丈夫だよ」
「うん。大丈夫」

「大丈夫って…。だって、学校から帰って来るときは制服でしょ?どうしたの?制服?」

「大丈夫だよ。ママ」
「大丈夫」

二人の可愛い笑顔。
ずっと守ろうと誓った笑顔だ。

「大丈夫って、あなたたちね…」

何かを隠しているに違いない。
そう思ったら涙が溢れだした。

つくしが二人に駆け寄り、両手を大きく広げ力一杯抱き締めた。

「何があったの?ママがいるからね。心配いらないからね…」
あたしがそう言って二人に頬擦りする。

凄く嬉しそうにあたしを見て笑ってくれる。

ひいろとみのりは『ママ…。ありがとう』そう言って、あたしの肩にしがみつくように力強く掴まってきた。

あたしも精一杯の力で抱き締めようとする。



なんだろ?


力か入らない…。


…あれ?




「…つくし。しっかりしろ」

声をする方を見ると、夫である司が扉の向こうからこちらを見ていた。

光が少しずつ室内に入り込んでくる。

「どうした?驚いた顔をして」

「どうしたって…。ひいろとみのりが…。あれ?どこにいったのかしら?二人がいない…。たった今までここにいたのよ…」

少しずつ光が射し込め始めた室内を見渡す。


確かに姉妹で肩を寄せあっていたのに…。
あたしを見てほっとした表情を見せていたのよ…。

「…司。二人は?どこに行ったの?」


じっとこちらを見つめている夫に恐る恐る尋ねる。

「どこ?何を言ってる。しっかりしろ。あの二人はもうここにはいない。わかっているだろ?」

抑揚がなく、淡々と答える夫の姿に、そうとは分かってはいるが、なぜにそこまで冷静にいられるのか信じられない思いが募り、涙が止まらなくなった。

「泣くな。泣いても、もうあの子たちとは一緒に暮らせないんだ。わかっているだろ?」


その言葉に後押しされるように、泣き崩れてしまった。


分かっているの。
…分かっているわよ。

あの子たちとは、もうとっくにお別れしたんの。

分かってるわよ…。

生活を共に出来ない事なんて…。

頭の中でもちゃんと分かっているのよ。

それでも、感情が溢れだすというのに、夫である司は、何の感情も宿していないのだろうか?


抑揚のない話し方。

まるで動かない能面のような顔。

瞳も光を宿していない。


「俺のお袋にも言われていただろ?今さら泣きすがってどうしようというんだ?」


夫のその言葉に酷く傷付いている。

彼の口からそんな事を聞きたくもない。


優しくして欲しい…。

『俺がいるから、心配ない』そう言って欲しいだけなのに…。



泣きじゃくっているあたしを見て何の感情も起きないらしい。

それでも、夫の名前を精一杯叫び、手を伸ばす。


「…つ。ウウッ…。つ、つか…。ウウッ。つ、司…。司。司!」

漸く伸ばした手は、夫をしっかりと捕まえている。




「…つくし。…つくし。しっかりしろ…」

悲痛な声が確かに聞こえてくる。




悲しんでくれるの?
嬉しいはずなのに、さらに涙が止まらなくなった。


「…つくし。つくし。しっかりしろ!目を開けるんだ!」



あたしの身体は誰かにしっかりと抱き抱えられている。


誰に?




光が眩しくて目が開けられない?

…違う。

泣いている。
あたし、泣いている?






自分の顔に手を当てると、酷く泣いていたのが分かった。

ゆ、夢?

ぼんやりとした目の前には心配そうな顔がある。

目がしっかりと合うと、凄くホッとしたような表情をあたしに見せた。

司?
何で?

両手を広げて、子供達の存在を確かめる。

あれ?
…いない。

昨日のことは、ちゃんと覚えている。

帰ってから子供達のベッドに潜り込んだ。
確かに両腕に子供達の存在を確かめて眠りに就いた。

まだ、頭がちゃんとしない…?


「ウクッ…。ウウッ…。司?…うららと立樹のベッドじゃないの?」

「違う。それより、大丈夫か?泣いてんのか?どうした?」


あぁ、…そうだ。

あたし、夢を見たんだ。
…凄く怖い夢。

何であんな怖い夢を…?

ま、まさか?
今日だったよね?

ひいろとみのりの二人はお義母様所に出掛けている。
帰国するために、昨夜に飛行機が発ったはずなのだ。

もしやと頭の中を不吉な事が駆け抜けて、また涙が止まらなくなった。

「…司、大変…。二人とも何ともないわよね?ねぇってば!!司が変な事をあたしに言ってくるんだよ?!ひいろとみのりがいないとかさ!だから、あたしが心配しているんでしょ?!」


ウワァーン


あたしは泣き喚きながら司に質問している。

司はそんなあたしにかなり当惑している。

「ちょっと待て。つくし…。ちゃんと説明しろ」

司が優しくあたしを見つめる。
夢の中の冷たい眼差しじゃない。

優しく見つめられたら、ますます涙が止まらなくなった。

あたしは今見た夢の内容を司に話して聞かせた。

聞かせている間、気が触れたみたいに泣きじゃくり、喚きながら話した。

あたしの話を黙って聞いていた司は、スマホを取りだし、あたしに見るように言ってきた。

ひいろとみのりが成田に降り立った後に迎えに出向いたSP兼運転手たちから、無事に各々のマンションまで送り届けたと連絡がきていた。



それでもなぜか涙が止まらなくなってる。

司があたしを優しく包むように抱き締め、髪を撫で、子供をあやすかのように話しかけてくる。

「分かったよ。俺が悪ぃんだな?冷たい態度を取ったんだろ?…分かったよ。こうして優しくすればいいのか?」

「ウゥウウッ…。そうよ。凄く冷たかった…」

「分かったよ。優しくするからな…」

「グズッ…。何でそんなとこ撫でるの?」

「何でって…。優しくするのに?」


そう言いながら、身体のあちこちを撫で廻してくる司を猛抗議した。



「絶対に司が悪い!あたしが変な夢を見たのは司のせいだからね!!」



頭の中でどこか冷静な自分自身がいて、こりゃあ相当イカれていると思った。





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プロフィール

えりりん

Author:えりりん
ようこそ、おいでくださいました。

ここは、「花より男子」の二次小説置き場です。

つくしと司のその後の未来を、勝手に妄想して、こんなだったら……♥️

等と、妄想に妄想を重ねたブログです。

よろしければ、覗いて見てくださいませ。

ただし、素人の勝手な思い込みで書いております。

皆様のお考えと異なる事があるかと思われますが、ご了承くださいませ。

原作様の神尾様には、素敵な作品をこの世に送り出して頂いて、本当にありがたく思っています。

えりりんの妄想で少しでも楽しんで頂けたらなと思っております。



出版社様、原作様とは、一切関係はありません。




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